幻の日本薄荷の物語

 

  幻の日本薄荷って知っていますか?

         The Story of Japanese Mint

2010年秋、矢掛町内の河川敷で大量に自生しているハーブの一種、薄荷(ミント)が見つかりました。矢掛町は岡山県の南西部に位置し、NHK大 河ドラマの「篤姫」が嫁入りのときに、本陣に宿泊した記録が発見され一躍有名になった、旧山陽道の宿場町です。これほど多くの薄荷が自生している場所が見 つかるのは全国的にも珍しいそうです。かつて岡山県南部は日本薄荷の一大生産地でした。薄荷の栽培が大正元年から行われていた記録も、矢掛町史の中に見つ かりました。栽培していた薄荷はメンソレータムの原料としてアメリカに輸出され、80%以上のシェアを持っていました。しかし40年ほど前に化学合成メン トールと海外産の安い薄荷にその市場を奪われ衰退し栽培農家は完全に消滅しました。今回見つかった薄荷は40年以上前、周辺農家で栽培されていた薄荷であ ろうと、地元のCATV局、矢掛放送が調査を始めました。(注:薄荷、ハッカ=ミント)‏ まず初めにわかった事は、昭和40年出版の「薬用植物分類学」という本に以下の記載がありました。

「 (セイヨウハッカと)ハッカとの著しい違いは、ハッカの花は葉腋に群生し、セイヨウハッカは枝端に穂状花序を頂生する。」わかりやすく言うと「日本のハッカは、葉と茎の接している部分に輪のように花を付ける。西洋ハッカは枝の先に稲穂のように花を付ける。」ということです。

姿、 形から明らかに日本の薄荷です。地元矢掛の農家の方で、昔の薄荷をもう一度栽培しようと6~7年前から探しまわってもなかなか見つからない幻の薄荷となっ ていました。 その方に確認をしてもらうと「懐かしいこの香りだ、間違いなく子供の時に刈り入れの手伝いをしたときに嗅いだ香りだ。よく生き残っていたものだ。」と言わ れました。さらに調査を続けると、40年以上前、岡山県立農業試験所倉敷分場で品種改良され、医薬品用、食品用のL-メントールやハッカ脳を採取するため、人の手で作り上げられた、いわばミントのサラブレッド達の存在が、浮かび上がってきました。岡山県産国産ブランド薄荷”三美、博美、緑美、秀美”たちがそれでした。 矢掛町では、 緑美博美、そして“秀美”の栽培記録が出てきました。 その中のどれであるかさらに調査を進めるべくGC(ガスクロマトグラフィー)で成分分析を行いました。すると甘い香りの素となる“メ ンソフラン(メントフラン)”が検出されました。このメンソフランは日本の薄荷には存在せず、海外種のペパーミントに存在している成分です。この薄荷はペパーミントなので しょうか?実は“秀美”という日本薄荷がありました。“秀美”は最後に品種改良、登録され、唯一イギリス、ロンドン郊外のミッチャム地方にあるミッチャム 種のペパーミントを母とし、三美を父として掛け合わされたミントで、農林8号の品種登録がある日本薄荷です。それゆえ“秀美”にそのメンソフランが存在します。まさに”幻の日本薄荷、秀美”との出会いになったのかもしれません。当時の農業試験場で、ペパーミントの甘い香りを、日本薄荷に組み込もうと苦労し た、唯一イギリス種との混合という貴重な日本薄荷の子孫のようです。し かし、まだ疑問もあります今回の薄荷は茎が緑色なのです。“秀美”は茎が赤いのです。しかし畑に植え替えた薄荷の茎は見事な赤色に染まりました。ある専門書によるとシソ科の薄荷は交雑をしやすいと書かれてあります。おそらく、40年の長い間放置されたその3種の薄荷の中で交雑をし、強い生命力をもつ種が、生き延び、今回矢掛で見つかったものと考えられます。40 年以上、人知れずひそかに命を紡いでいたようです。

なんと素晴らしい事。このことから矢掛放送ではこの薄荷を矢掛町の資産とすべく乱獲等を防ぐため、品種登録を行おうとしています。しかし品種登録は短くて5年、長くて10年かかるそうです。それゆえ、約4カ月程で取得できる商標登録を行い、保護することにしました。

薄荷は遠い昔中国から伝来したという説があるのと、矢掛は遣唐使「吉備真備」に由来がある地とされていることと、“秀美”、“博美”などの系統で、美しい緑色の姿をしているところから「真美緑」という商標登録名を付けました。「矢掛の幻の日本薄荷」登録商標真美緑。日 本薄荷の香りですか?なかなか嗅ぐことはないでしょうが、一度嗅ぐとその香りの虜になることはまちがいありません。初めてにおいを嗅いだ人は「まったく、 嗅いだ事のない香りだ、全然イメージと違う。」と感想をいいます。この貴重な日本薄荷を、地元の契約農家の方に依頼し、休耕地として10年以上経過した畑 に、町内に何箇所もある自生地の薄荷の中で、蛍や翡翠が生息する綺麗な川で生き延びた中の、最も香りの良い株を選別し植え替え、さらにより香りの良い株を 選別し農薬や化学肥料を使わずコツコツと苗を増やし、まず初めに一枚一枚手摘みしてお茶を作る事にしました。今後、癒しをキーワードに、自然農法等を駆使 し、アロマ、スイーツ等の製品に加工し、矢掛町の特産物、ブランド作物、ブランド品として付加価値の高い製品に仕上げ、町おこしに活用していければと研究 中です。備中地区で古くて新しい農産業を再興できればと日夜奮闘中です。